風云-fengyun-

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***since 2005/03***

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4th.Discovery 明日への追跡 Brew - あなたのハート、もらいます -

 あの日から、アタシ、何かがおかしい。
 寝ても覚めても彼のことばかり。お化粧してるときだって、ああ今日のアタシを見たら彼はどう思うかしらって、そればっかり。
 これは、あれね、それよ、きっと。
 恋の病だわ。そうに違いない。
 アタシはあの夜の、葉佩九龍に恋をしたの。
 葉佩ちゃんのことを思い出すだけで、心のポエムが次から次に浮かんで来ちゃう。ああ、愛って素敵。
 アタシは屋上で、閃いたポエムを次から次へと携帯電話に打ち込んでいたの。
 そうしたら、後ろから、
「おー、朱堂じゃん。おっつー」
 って、声がするじゃない。アタシの聴覚が彼の声を聞き違えるわけないわ!
「あぁん、葉佩ちゃん!」
「なーに、やってんの?」
 そんなッ、アナタに贈る愛のポ・エ・ム、だなんて言えないわッ。茂美、恥ずかしい!
「おい九龍、それに近付くな」
「えー、何で?」
「食い付かれるからだ」
 まぁッ、失礼しちゃう。
 葉佩ちゃんの後ろには、彼の襟首を掴んで引き寄せてる皆守甲太郎の姿が。……今のところ、一番の強敵は彼ねッ。學園で葉佩ちゃんを見掛けるときにはいつもって言っていいほど隣にいるもの。皆守ちゃんだってイイ男よ?でも、アタシの愛は葉佩ちゃんのモ、ノ。
 葉佩ちゃん登場に、慌ててアタシはコンパクトを取りだしてお化粧直し。だって、好きな人の前では一番綺麗でいたいじゃない?
 そうしたら葉佩ちゃんは、アタシの前へわざわざ回り込んで、しゃがみ込んでじぃーっと、アタシの顔を見つめてくるの。キャッ、恥ずかしい!
「な、そういやーさ。そのコンパクト」
「え?なぁに?」
「思い出の、大事なモンなんだろ?」
 そうね。あの遺跡に捉えられていたアタシの思い出と、宝物。アナタが取り返してくれたのよね、アタシの元へ。
「そうよ。アタシの、大切なモノ」
「そっか」
 葉佩ちゃんはちょっとだけ考え込んで、膝の上で組んだ腕で頬杖を付いて、微かに首を傾げるの。
「それって、どんな思い出があんの?」
「……聞きたい?」
「おぅ」
 アラ?アララ?これって脈有りかしら?アタシの全てを知りたいのねそうなのね!
「オーホホホッ!今の聞いたわね、皆守甲太郎!葉佩ちゃんはア・タ・シのことなら何でも知りたいんですってよ!!」
「誰もンなこと言ってねぇだろうが…」
「ウフフ、ヤキモチは見苦しくてよ、皆守甲太郎」
「誰がヤキモチだッ!」
 図星を指されてがなり立てるようじゃ、アナタもまだまだね。
 それに、アタシには強みがあるもの。
 あの神秘の遺跡で、葉佩ちゃんと愛を交わし合った時間…素敵だったわァ、ウフフ。
「いいわよ、オホホ、何て言ってもアタシは葉佩ちゃんと抱き合って、愛を囁きあったんですもの」
「はい?そういう疲れる冗談は休んでも言うんじゃねぇよ」
「あら、信じてないのね?でもそうですもの、ねー、葉佩ちゃーん」
 アタシと皆守ちゃんの視線が、同時に葉佩ちゃんに向く。すると葉佩ちゃんは困ったような表情になって、アタシたちの顔を交互に見た。もぅ、そんな困った顔も可愛いんだから!
「うーん、まァ、うん。確かに」
 その答えを聞いた瞬間の皆守ちゃんの顔ったら!トレードマークのアロマパイプが落ちかけちゃうくらいにビックリしちゃったみたいね。でもお生憎様、本当のことだったでしょ?
「……ウソ、だろ。九龍、女好きってのは、そういう性癖隠すためだったのかッ?」
「違う違うッ!皆守、落ち着けって!」
 我に返った皆守ちゃんは、葉佩ちゃんの肩を掴んで揺さぶってる。そんなことしたって、事実は変わらないわよ、ウフフ。
「オーホホホッ、事実は事実よ。もう、夜の葉佩ちゃんたら積極的で、もう茂美、思い出すだけで鼻血が…おっといけねぇ」
 イヤだわ、アタシったら。鼻血がボタリ。
「九龍……」
「ウフフ、葉佩ちゃんたら、ふたりっきりになりたいってアタシに言ったわ。それからダーツと銃で愛を交わし合って、アタシのダーツが葉佩ちゃんのハートに刺さったの。アタシたちは抱き合ったわ。葉佩ちゃんはアタシの首に手を回して、そして…」
「そして?」
 あぁん!もう、そこから先は聞きっこなし!
 アタシが身を捩っていると、葉佩ちゃんが何やら皆守ちゃんに耳打ち。やん、そんなにくっつかないでッ!
 皆守ちゃんはしばらくムスッとした顔で聞いてたけど、葉佩ちゃんが「ってワケ」と言った途端に溜め息なんか吐いちゃって。
「そう言うことなら早く言えよ…俺はお前らと違って心臓に毛なんか生えてないんだからな」
 皆守ちゃんに小突かれた葉佩ちゃんは、笑って、「ごめんね」ですって。
 それから、
「でも、結構しんどかったよなー…あん時は」
 その時のことを思い出したのか、葉佩ちゃんは頭に手を遣って苦笑した。
 確かに、アタシと彼は敵同士としてあの部屋にいた。戦いもしたわ。アタシ、葉佩ちゃんの手の平が真っ赤に染まっているのを見たもの。今は傷跡ひとつ残ってなくて、(それがちょっと寂しかったりもするのよね)
「それだけアタシのために必死だったのよね葉佩ちゃんは!」
「あ、あっはは、えっと、まぁ」
 含みのある言い方ねぇ、気になっちゃうじゃない。
 葉佩ちゃんは苦笑いのまま、まるで顔色を窺うように皆守ちゃんを見上げたの。アタシも一緒に見たんだけど、もう超不機嫌!て顔で葉佩ちゃんのこと見下ろしてたわ。そういえば、皆守ちゃんはアタシ達の戦いの時、その場にいなかったわよね。葉佩ちゃんはフラれた、なんて言ってたけど、もしかしたらあの時フラれたのは葉佩ちゃんじゃなくて皆守ちゃんだったとか?
 葉佩ちゃんも皆守ちゃんの視線に剣呑なモノを感じ取ったらしくて、慌てたようにアタシに向き直って話題を変えてきた。
「えーっと、ほら。取手と椎名ちゃんには、思い出を見せてもらったんだけど。朱堂からは何も聞いてない気がするんだよなー、俺」
「あら、そう?」
「あ、別にいいよ、詮索しようってワケじゃないし」
 そうやってあっさり引かれるのも何だか癪ね。葉佩ちゃんて押してダメなら引いてみるって手が通用しなさそうだわ。引いたら本当にそのまま引いてっちゃいそうな感じ。 「いいわよ、アナタにだけならっこっそり、教えてア・ゲ・ル♪」
「ホント!?」
「て言っても、誰かを失ったとか、そういうことがあるワケじゃないのよ?」
 コレは今まで、誰のもしたことのない話。それをどうして彼になら話せると思ったのか分からないけれど。
 けれど。アタシは、彼ならば信用できると、全てを預けて良いと、そう思ったの。
 言葉の続きを待つ好奇の眼差しも、あの日、遺跡でアタシを見つめてきた色っぽい視線も、アタシは全部好き。これから何を話そうと、彼ならきっと、真摯に受け止めてくれるって言うのは予感じゃなくて確信ね。
 アナタはあの日、アタシのハートを奪い去っていった《宝探し屋》。
 でもね、奪われっぱなしっていうのはアタシの性に合わないの。
「あのコンパクトは…」
 話し出したらすぐに身を乗り出してくる葉佩ちゃん。
 どうしましょ。教えてあげようかしら?女の秘密は、大切な人にしか明かさないの。じっくり、じわじわと、時間をかけて。
 フフ、覚悟なさいな。アタシはきっと、アナタのハート、もらいます。

End...