風云-fengyun-

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***since 2005/03***

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3rd.Discovery Brew - 一緒なら、きっと -

 お昼休み。
 いつもみたいに部室でご飯を食べようと思って、廊下を歩いてましたの。
「あれ、椎名ちゃんじゃん!おいーっす、椎名ちゃーん」
 C組の前を通りかかったときに呼び止められて振り返ると、葉佩クンが教室の中からリカに向かって手を振っていらっしゃいましたわ。机の上にお座りになってますの。隣には、お団子頭の八千穂サンと、遺跡でもお会いした皆守クン。
 …なんでしょう?葉佩クンはまるでおいでおいでをしてるようにも見えますわ?
「な、な、俺らこれからメシなんだけど、椎名ちゃんも一緒しない?」
「リカも、よろしいのですかぁ?」
「いーよ。なぁ?」
 葉佩クンが隣のお二人に声を掛けると、八千穂サンは頷いてくれましたの。ですが、皆守クンはリカの方をちらりと見ただけであとはなぁんにも、反応なさらないんですもの。変な方だとは思ってましたけど、やっぱりそうでしたのね。
 けれど、そんな皆守クンの態度も、葉佩クンには了解の合図だと映ったみたいですぅ。
「おっし、決まりー。どーする?マミーズ行く?それともパン買って屋上でも行っとく?」
 今日は天気もいいし、と葉佩クンは笑いながら教室の入り口に向かってきますの。
「椎名ちゃんは、どっちがいーい?」
「リカはぁ、葉佩クンとご一緒させて頂けるならどちらでも構いませんの」
「ヤだん、九龍照れちゃうvんじゃ、どーすっかな。なぁ、八千穂ちゃんはどっちがいい?」
「実は休み時間中にお昼のパン買ってあったりして。ね、屋上行こうよ!」
 やってきた八千穂サンは、葉佩クンではなくて、なぜかリカに言ってきますの。
「リカは、それでいいですわ」
「椎名ちゃん、ご飯ある?」
「えぇ、お弁当がありますの」
「よーし、じゃあ屋上へレッツらゴーだ!」
 葉佩クンは教室から出ようとして、思い出したように振り返りますの。その視線の先には、椅子にもたれ掛かって足を投げ出したまま動こうとしない皆守クンが。
「おーい、皆守、行こうぜよ」
「俺まで巻き込むな。行くなら勝手に行け」
 まぁ!葉佩クンに向かって、なんてことを言いますの?ちょっと驚いてしまいましたわ。それからついでに口が悪いので、10点減点ですの。
 …でも、もしかしたら、リカのことが嫌でご一緒してくれないのではないかしら?
 そんな風にリカが思ったことを、葉佩クンは感じ取ったのかもしれませんわ。リカの頭を軽く叩いて、また皆守クンを呼びますの。
「みなかみー、行こうぜー、なぁ?」
「行かない」
「一緒にご飯~」
「一人で食う」
「……これなぁんだ」
 葉佩クンが手に持っているのは…カレーパン?それを見た皆守クンは、なぜか慌てたように鞄や机を探すような仕草をしていますの。お探し物は、何かしら?
 一通り調べ終わってもお探し物が見つからなかったようですわね。もんのすごぉく、怖いお顔で葉佩クンのことを睨んでますの。
「はぁ~ばぁ~きぃ~ッ!!」
「へへーん、お前のカレーパンは預かった!!返して欲しくば屋上まで来い!」
 決闘じゃぁ!と、よく意味の解らないことを叫ぶが否や、葉佩クンは突然リカの手を握りましたの!
 先日、初めてお会いしたときも手を握られましたけど…今日は何だか、ドキドキするんですの。あの時のように、捕まえるように手を握るのではなくて、何と言えばいいのでしょう?引っ張っていってくれる、そんな風に思えましたの。
「皆守がキレた!行くぜ、椎名ちゃん!」
「え?えぇッ?」
「『敵影移動』だってさ!!八千穂ちゃんも逃げるぞ!!」
 葉佩クンは、持っていたカレーパンの袋を制服のポケットに入れると、
「きゃッ!」
「落ちんなよ!!」
 リカの身体を簡単に持ち上げてしまって、えぇと…これはお姫様だっこですわ。そしてそのまま、廊下を駆けだしたんですの!後ろからは楽しそうに八千穂サンが追いかけてきて、更に後ろからは…、
「皆守クンが追いかけてきましてよ?」
「やべやべ!!怖ェ!椎名ちゃん、ちゃんと捕まっててな!」
「はいですの」
 人がたくさんの廊下を、葉佩クンはまるで流れるように駆け抜けていきますの。通り過ぎていく人たちはみんな、リカたちを振り返っていって、とぉーっても目立ってますけど、なんだかすごく……楽しいですわ。
「てめぇ、コラァッ!!葉佩!」
 顔を出して後ろを見ると、まぁ怖い!皆守クンは自分の前に立ってる人を蹴り倒しながら追いかけてきますの。
「うひょー!捕まったら延髄決定な」
「大丈夫だよ、皆守クンならカレーパンがどうなってもいいのか!って言えば手は出せないはずだから!」
 葉佩クンも八千穂サンも、ずーっと走ってるのに息が切れてないですわ。きっと体育がお得意ですのね。リカはあんまり、たくさん走るのは得意じゃありませんの。
 まだまだずっと、廊下を走って、3-A教室の前に来たとき、葉佩クンは教室から出てきた誰かとぶつかりそうになりましたの。
「おぉっと、悪ぃ…、って、取手じゃん、おっつー」
「やぁ、葉佩君……そんなに急いでどうしたの、というか椎名さんまで…」
「敵敵!敵に追われてんだよ!」
 立ち止まってる暇はありませんわ。こわーいオーラが迫ってきますの。
「な、取手、頼む!あいつにあれやって、あれ!」
「あれって…フォルツァンドかい?」
「そーそー!捕まったら俺ら、延髄切られてミンチにされた後解体されて、ぐつぐつ煮込まれて、はい美味しいカレーの出来上がりでさぁ、な、頼む!」
 例えがよく分かりませんけど、フォルツァンドって…取手クンが使う、力のことですわよね?いいんですの?皆守クンに使ってしまわれても。
「君に危険が迫っているというなら、僕はいつだって力になるよ」
「サンキュ!取手、恩に着る!!愛してるよーんvv」
 そうしてまた走り出して、階段を軽快に登りながら、取手クンの「この曲を聞くがいい」という声、それから皆守クンの呻き声が聞こえてきましたの。それでも、まだ足音は追いかけてきてるみたいですぅ。
「すごいね!皆守クンのカレーパンに対する愛!まだ追っかけてきてるよ!」
「愛だよ、愛!愛の力だ!みなかみー、愛してるよーー!!」
「ざけんなぁッ!!」
 階段の踊り場まで駆け上がったとき、階段の下に皆守クンが現れましたの。あらぁ、お疲れのようですのね。
「てめぇ!何てことすんだ!危うく脳味噌溶けるとこだったろうが!」
「大丈夫だろ?元々脳味噌カレーなんだからさvv」
 あら、そうだったんですの?リカ、知りませんでしたわ。
「俺のカレーパン、返しやがれ…」
 あんまりに、皆守クンが怖い顔なさってるから、思わずリカも、
「それは、できませんのぉ」
「…何?」
「リカが、食べちゃいましたもの~」
「何ぃぃぃぃッ!?」
「ウソですわv」
 途端に、葉佩クンと八千穂サンが吹き出して、リカも一緒に笑ってしまいましたの。
 でも、笑ってない人が、一人。
「……本気で、キレるぞ」
「って、もうキレてるじゃん」
「それは何だ、あれか?もう俺に殺してくださいって言ってるようなもんだよな?というか殺すぞ」
 本当にカレーパンを愛してらっしゃるんですのねぇ。
「てか、元はといえばお前が悪い!せーっかくの昼休みなのに俺と過ごしてくれないなんて!愛が足りんよ、愛が!」
「いや、お前普通に脳味噌湧いてるだろ?元からか?あぁ、元からだ」
「というわけでばいばぁーい!」
「あ、てめっ!!」
 葉佩クンは、一度ふわりとリカを抱え直すと「走るよ」と、もう走り出してるのに言うんですの。
「追いつかれてはいけませんわよ?」
「ガッテンでい、姫サマv」
「ウフフ…」
 ふわふわ、揺れながら目を閉じると、今まで聞こえなかった音…風を切る音とか、葉佩クンの心臓の音色とかが聞こえてきますの。そして、飛び出した屋上、空の下。
「いぇーい奇跡の生還!!」
 突然投げ出されて、一瞬リカは宙を舞いましたの!でもすぐに、また、葉佩クンが受け止めてくれて。気が付いたら、自分でもビックリするくらい、笑っていましたの。こんなにたくさん笑ったのは、いつくらいかしら?
 それはきっと、お父様とお母様とベロックと、一緒に過ごした日が最後。でも、お母様は、死んでしまった。お父様も、連れ帰ってくることはできませんの。
 けれど、それを受け入れることができましたから、もう大丈夫ですの。燃えさかる炎をくぐり抜けたその先には、大切なものが待っていてくれましたわ。
 悲しみを、独りで乗り越える必要はない。
 一緒に、誰かとこうして笑っていられるから。
 葉佩クン?これからも、リカの傍にいてくださいな?約束、しましたもの、ね?

End...