風云-fengyun-

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***since 2005/03***

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3rd.Discovery あの炎をくぐれ! - 8 -

 化人創成の間。
 そう呼ばれる区画に入って、最初に目に飛び込んできたのは闇と、後ろの扉が閉まる音と、それから、響き渡る、高い笑い声。
「フフフ」
「椎名ちゃん…」
 やっぱり彼女はここにいた。
 微笑んだまま、スカートの端を摘んで、軽く会釈をしてくる。返すことは、できなかった。
「ようこそ、葉佩クン。やっぱり来たんですのね」
「ゴメンねー、来ちゃったー」
「それはつまりィ、『死』を恐れてなどいないって事ですよね?」
 やっぱり彼女は理解できていない。
 『死』を口にしながらニコニコ笑うんだもん。なんか、こっちの感覚がおかしいのかも、って気になってくんなぁ…。
「死を恐れない、そんなおっかないこと、俺にはできねーよ」
「では、どうしてこんなところまで来たんですの?……おかしな人」
「よく言われる」
 俺だって、思ってるよ。
 これって、《宝探し屋》の仕事?とか。
 余計なお節介かも、とか。
 椎名ちゃんにとって一番良い選択肢はどれかまだ分かんない、とか。
 でも、絶対的に今の彼女の感覚は、俺としては許せないわけで。俺を殺すのは一向に構わないけど、後ろの二人は殺して欲しくないわけで。もちろん椎名ちゃん自身を殺す、なんてことも思ってないわけで。
 とにかく、『死』の重さを、彼女に突き付けたかった。たぶん、そんだけ。
 椎名ちゃんは、また、可愛らしい容姿らしくもない、艶然とした微笑みを浮かべる。
「さあ、あなた望む罰を差し上げますわ……あなたには、ここで死んでもらいますの」
 じゃあ、椎名ちゃんの言うところの、俺の罪ってのは何?
 サボり?執行委員の職務妨害?それとも、『死』を受け入れていること?
 分かんねー。分かんないけど、納得はできない。それに、俺に罰を与えるなんて素敵なこと、彼女にはさせてやらない。
「罰なら食らわしてほしいトコだけど、生憎と死んだくらいじゃ済まないらしくてさ」
「え?」
「それに俺に罰を与えられるのは、あんたじゃない」
 ずいぶんと愛想ないなぁ、俺、とか思いながら、一瞬でかなり距離を取った椎名ちゃんを警戒する。彼女の得物はおそらく爆薬だ。離れてても近くても、いい事なんて何もない武器。ヤだねぇ、まったく。
「取手、横の二体を頼む!」
 言い終わるかどうかってタイミングで、取手は椎名ちゃんの展開した戦闘区域に現れた蜘蛛を二体、フォルツァンドで攻撃していた。そうしてる間に、俺は目の前の蜘蛛を撃ち殺す。
 まだ、奥からはガサガサって這う音と、椎名ちゃんの甘い声が響いてくる。
「皆守…」
 こんなこと、一般人に頼めることじゃねーのかもしんないけど。
「援護、頼む」
 バディだから。
 俺一人でつっこんでって、そんで俺が使い物にならなくなったら、困るのは皆守と取手だ。だったら、俺は少しでも踏ん張らにゃいけん。それには助けが必要なんだ。
「…危なくなったらな」
「頼りにしてるよーん」
 いざとなったら……死んでも、守るから。
 それは口に出さずに、俺は近付いてきた蜘蛛に狙いを定めた。ショット、しようとした瞬間。俺は吹っ飛ばされた。目の前の蜘蛛もろとも飛ばされて、蜘蛛は弾け飛んだ。もち、俺だって飛んだけど、後ろにいた皆守が支えてくれたおかげで大したダメージはない。
 暗闇からこちらへ向かってきたのは椎名ちゃんだった。手には、今日だけで二度見かけた、あのプレゼントのような包み。
「あらぁ、外しちゃいましたのねェ?次は当てますわよ」
「へッ、ジョーダン!!」
 椎名ちゃんはにこにこと笑いながら俺を殺そうとしてる。『ここで死んでもらう』、彼女は確かにそう言った。
 俺は彼女の周りを間隔を取って周回しながら、彼女から置き去りにされた蜘蛛を片付けていく。
 椎名ちゃんは手当たり次第に爆弾を投げてたけど、どうにも嫌になってきたらしい。ゴメンねー、俺ってば逃げ足早くって。
「もーぅ、どうして死なないんですのぉ?」
「そりゃ、おかしいだろーがよ」
 爆音が止んだ。彼女が頬を膨らませて、俺を睨んでいた。
「椎名ちゃん、俺のこと殺したいんだろ?でも、『死』が大したことないなら、俺はすぐに蘇るぜ」
「どういうことですの?」
「死んでも死んでも、蘇れるんだろ?そう言ったのは、椎名ちゃんだ」
 彼女の顔に、微かに戸惑いが走った。
「で、でもぉ、黄泉の国に行けるのはお父様だけですもの!葉佩クンは、ここで死んじゃうんですの」
「どうしてオトウサマだけだって言える?伊邪那岐だって行けたんだろ、黄泉の国」
「あの人は、神様だからですゥ!あなたはぁ、ただの人間ですから、死んだら終わりなんですの」
 勝ち誇ったように椎名ちゃんは笑っていた。高らかに、朗らかに。
「……そうだよ」
「え?」
「ただの人間なんかな、死んだら終わりなんだよ!ほんでな、君も、俺も、オトウサマも、ただの人間なんだ」
 蝋人形のように、椎名ちゃんの顔から表情が抜け落ちた。それが、次第に小刻みに震えて、俯いて、呟いた言葉は。
「嘘です、あなたは、嘘吐きなんですゥ!」
「そうやっていつまでも逃げてられると思ってんなよ!?」
 女の子だからって、甘やかしていいときといけないときがある。近寄ろうとした俺に、椎名ちゃんは顔を上げて爆弾を投げてきた。辛うじて避けたものの、爆風で身体が傾ぐ。そこへ、もう一発。今度は完全に射程に入っていた。食らうことを覚悟して歯を食いしばった俺の襟首を長い腕が掴んだ。そのままぐらりと傾いて、攻撃範囲から俺を連れ去る。
「嘘吐きには、罰が必要なんですぅ。リカのニコニコターイム!」
 なんじゃそりゃ、とツッコんでる暇はなかった。連続で投げられた爆弾を見て、俺は咄嗟に皆守を突き飛ばそうとした、んだけど。皆守の腕がそれを許さない。
「バ、バカ!!」
 同時に、衝撃。まともに食らって、俺らは吹っ飛んだ。喉が焼けて、肺が焦げる。息が妙に熱いのは、気のせいなんかじゃなかった。
 何度か咳き込んで、隣の皆守を見ると、制服の左腕んとこ、焦げてる。
「キット、これ……治療…しとけ」
 うまく声が出なくてそれだけ言うと、俺はこっちに近付いてくる椎名ちゃんの注意を引くために走った。皆守が怒鳴る。俺は、聞こえないふりをする。
 命に重いも軽いもないって言うけど、それは嘘だ。
 今、俺にとって大事なのは何より取手と皆守の命だ。吹けば飛んでくような軽い命なのは、俺と、今の椎名ちゃんだ。命をすぐ投げ出したがるバカと、命の尊さを知らないヤツの命が重いわけないって。誰かが、言ってた。……誰だったかな。
 俺は椎名ちゃんの足下に威嚇射撃をし、怯んだ彼女に一気に近付いた。
 小柄な彼女を足払いで倒すと、俯せにして手を捻り上げた。
「のろ、われた…ちからが、何を忘れさせてるか、おもい…ださせねー、んだろッ」
 腕を締め上げる俺の下で椎名ちゃんが必死で藻掻く。俺は、なるべく傷の付かない場所……靴の先に銃口を向けた。《呪われた力》を、全部ゼロにするつもりで、引き金を引き続ける。椎名ちゃんの悲鳴を聞いてると、なんつーか、まるで強姦魔?八千穂ちゃん辺りには見せらんねー光景だわな。
 そうこうしてる間に、椎名ちゃんの身体からは力が抜けていた。その代わり、暴れるように身体から吹き出す《黒い砂》。
「な……、何ですの、これは……リカの身体が――――!!」
 戦慄く椎名ちゃんの身体を抱き竦めて、そこでH.A.N.Tの警報を聞いた。
 新たに戦闘区域の展開が始まって、俺の前に現れたのは……ハクション大魔王でも出てきそうな壺から出たり入ったりする、まるで一人コントのようなヤツだった。このエリアの墓守…そして、椎名ちゃんの《宝》を封じていた野郎。
 すぐに取り巻きのサソリがこっちに向かってきたから、俺は椎名ちゃんを抱きかかえたまま後方まで下がった。後ろでは取手が戦っていて、皆守が援護してるって感じ。
「どいてろ!」
 思い切り噎せた。でも無視。
 囲まれそうになった二人を部屋の窪んでいる場所に押し込めて、ついでに椎名ちゃんも降ろす。そして、近付いてくるサソリにガスHGを投げて殲滅させた。
 ……遠くの方で籠もったように気味悪く反響する声が聞こえる。あのハクション大魔王ですかね?
 俺はミネラルウォーターを口に含んで、MP5を手に取った。
「椎名ちゃん、頼む」
 取手にそう言ってから、窪みから飛び出した。敵影はすぐそこ。迷わずにガスHGを投げた。数匹いたサソリのうち、一匹が消えた。残りのは銃で撃ち殺す。残弾が少なくなったマガジンを抜いて新しいのに装填して、距離を取った。ハクション大魔王は窪みから離れてどんどん俺の方に向かっている。
 そうやって、下がりすぎたのがまずかった。もう、すぐ後ろには壁。これ以上下がったら、攻撃を受けたとき、壁に激突して非ダメージが増える。それは、良くないから、立ち止まらずに平行移動で射撃。
 んで、最低なことにあんまり銃が聞いてねぇでやんの。嗚呼、ムカツク!!
「ぼよよぉ~ん」
 ……絶対アホだ。俺と同レベルで、このハクション大魔王はアホだ。
 って、これが攻撃の合図!?まずい!!
 何の身構えもしなかった俺は絶対、吹き飛ばされるだろうって覚悟してた。でも次に俺にやってきたのはあの、揺れる感覚とラベンダーの匂い。
「あぁ……マジで眠ぃ」
「皆守、寝るな!」
 そんなこと言ってる俺も結構眠くなってたりして…何で?まさか、こいつの攻撃か!?あー、やっぱ音痴の皆守にはよく効くのな。全然感心してる場合じゃないけど。
 とりあえず、銃が効かない。思いついて爆弾を投げてみると、今度は効果覿面。ハクション大魔王は悲鳴を上げている。もう一発!といこうとしたところで、なんと、ガスHGがもうねぇでやんの!!
 慌てた俺に、敵の一撃。今度もまた、皆守は船を漕ぐ。…半分寝てるときの方が発動率高い気がすんのは、気のせい?
 とにかく、距離を取らねば。そう考えて、後ろの皆守に肘鉄でも入れて起こそうとしたとき。
「この曲を聞くがいい…」
 最高のタイミングで取手のフォルツァンドが炸裂した。そして、それはハクション大魔王の余力を根こそぎ奪い取って……戦闘は終了した。
『敵影消滅』
 安全領域に入りますってね。ふぃー、終了!
「取手、サンキュー!助かった!!」
「いや、僕は…君が危ないと思ったらもう、無我夢中で」
 マジ、ありがと。取手がいなかったらちょっとヤバかった。いんや、ちょっとどころじゃなく、ヤバかったはずだから。
「…葉佩君、皆守君は……」
「皆守?」
 そういえばずっと、抱えられっぱなしだったから、もしかしたら寝たのかと思って声掛けたんだ。
「寝てる?」
「寝てる」
「起きてんじゃん」
 どっか寝ぼけたような声で言うもんだから、仕方なく肘鉄は我慢して、皆守を呼んだ。
「皆守、頼む、起きろ!」
「眠ぃ…」
 スキル発動じゃなくて、本格的に眠いらしい。
「じゃ、ここで寝たらチューね、チュー。俺、チューしちゃうかんね」
「……は?」
 よし、起きた。
 顔を上げた皆守の腕を首からどかして。さっきまでハクション大魔王がいたところに置かれた箱を、手に取った。
 それはオルゴール。瀟洒な細工が施されていて、何ていうか、大事にされてたモンだっていうのが一発で分かる。たぶん、これが椎名ちゃんの《宝》なんじゃねーかな?
 俺は、部屋の隅に横たわる椎名ちゃんを揺すって、声を掛けた。
「椎名ちゃん、起きてー。それともどっか痛い?」
「ぅ…ん……?」
 うっすらと目を開けて、それから数回瞬きをして、椎名ちゃんは身体を起こした。
「葉佩クン…?ううッ、リカは、一体……」
「ほれ。これ、椎名ちゃんのっしょ?」
「何……ですの?」
 椎名ちゃんの目の前にオルゴールを差し出した。
「あッ―――!!そのオルゴールは――――…」
 椎名ちゃんの手に、オルゴールが渡った瞬間。
 また、俺の頭は真っ白になった。

*  *  *

 ここは……教会?
 追悼の鐘の音。
 ……葬式だ。
 
『リカ……私の可愛いリカ………』
 あれは…椎名ちゃんだ。今よりもっと、幼いけれど。だとしたら、隣にいるのが例の、オトウサマ、か…?
 椎名ちゃんの親父さんは、普通の人間だった。当たり前だ、死者を蘇らせることなんて、できない、ただの人間だった。
 ここは教会。そして、追悼の鐘の音。葬式。それは、椎名ちゃんの母親の。
『お母様はね、もう戻っては来ないんだよ。お母様もベロックと同じお空の向こうへいってしまったんだ…』
 それを聞いた椎名ちゃんの顔が、悲痛に歪む。受け入れられないと言うように、首を振りながら。
 親父さんは、椎名ちゃんの髪を撫でながら、彼女の目線になるように、しゃがみ込んだ。
『すまない、リカ。私はただ、お前を悲しませたくないだけだったんだ……お前の悲しい顔を見たくなかった……』
『………』
『いや――――その悲しみからお前を救うことができない己の無力さが怖かったんだ。本当はただ、私こそが恐れていたのかもしれない。現実という名の炎を……』
 救うことのできない、己の無力さ。それが怖いことは、俺もよく知ってる。救いたいと心の底から願っても、どうにもできない自分は、本当に怖いんだ…。
 親父さんは、泣きじゃくる椎名ちゃんに、ある物を差し出した。
 それが、あのオルゴール。
『大丈夫。お母様は、いつでも私たちのすぐそばにいるよ、リカ。このオルゴールを覚えているかい?』
『これ…リカが生まれた時にお父様とお母様がくれた――』
『そうだよ。まだお前が幼い頃、三人で幾度も一緒にこの音色を聴いただろう? 目を閉じて想い出してごらん』
 椎名ちゃんが、ゆっくりと目を閉じる。その目からすっと流れ出た涙。
『お母様の姿が――、見えるかい?』
『うん……』
『お母様がいなくて寂しいと思ったら、いつでもこのオルゴールを開けてごらん。私たちが忘れない限り、お母様はいつでも私たちの心の中にいるいよ……。ずっと―――』
 ゆらりと、景色が揺れる。次に空間が形を取り戻したとき、そこはもう教会じゃなかった。
 真っ白。意識を侵食してくるかのような白。聞こえてくるのは、ただ途方もなく優しい、あれがきっと、母親というものの声だ。
『リカ―――梨花。恐れないで、愛しい子。現実という名の炎を勇気を出してくぐれば、そこには、あなたが望むものを手にする事のできる世界が広がっている―――。決して目を背けずに、飛び込んで行くのよ。梨花―――』



『決して目を背けずに、飛び込んで行くのよ』
 不意に、自分に言われた気がして。
 俺はまた白く戻っていく意識に身を任せた――――…。 
 

*  *  *

 いつの間に戻ってきたんだか墓地にいて、気が付くと、椎名ちゃんはオルゴールを腕に、泣いていた。
「あたたかい、音色……お母様…お父様―――」
 そうして、涙を拭って俺を見た。
「死んだ人は二度と戻らない…」
 ゆっくりと、俺は頷く。
「どうして忘れてしまっていたのかしら……お母様はいつでもリカの心の中にいる。そう分かっていたはずなのに、どうしても寂しくて―――」
 白くて細い指先が、オルゴールを撫でる。音色は、震えるように辺りに響き続けていた。
「気が付いたときには、その寂しさごと、大切なものを失っていたんですの」
 それだけ、母親の死が、椎名ちゃんにとっては辛かったって事だ。『死』は、それだけ大きな事だ。椎名ちゃんは知らなかったんじゃないんだ。ただ、どうしても受け入れられなかっただけ。
「《黒い砂》のようなものがリカの弱い心ごと大切なものを奪っていったんですの。それを葉佩クン、あなたが取り戻してくれた」
 俺は、何をしたわけでもねーけどな。一人だったら、多分無理だったし。
「葉佩クン…」
「ん?」
「あなたはリカを一人ぼっちにしない?」
 首を傾げて微笑んでくる椎名ちゃんは、うん、可愛い。すっげー、可愛い。
「俺で良かったらな。もう朝から晩まで椎名ちゃんが寂しいなんて思わないように万全体勢でいるよ」
「…それは、本当ですの?うふふ、嬉しいですの」
「俺だって可愛い子の話し相手になれれば嬉しいよ。お互い様ってことで」
「フフ、葉佩クンの傍はなんだかとっても暖かくて居心地がよさそうですの」
 ……それって体温が高いってこと?俺、平熱めっちゃ低い方だけど…。
「なんだか、安心できそうですの…」
 あ、そういう意味ね。何か俺、最近株価急上昇だな。取手も、そう言ってくれたし。
「うふふっ。あなたにこれを差し上げますわ。これをリカだと思ってくださいです~」
 これ、って…。要するに、俺に協力してくれるってこと、だよな?
「…サンキュ、な。ありがと。大事にする」
「それから、これも」
 金属の擦れ合う音。椎名ちゃんが取りだしたのは、どこかの鍵。
「きっと、葉佩クンのお役にたてると思うんですの。リカの感謝の気持ちですわ」
 理科室…?って、書いてあるよな?いいのか?俺みたいな爆薬作りが趣味、とか言ってるヤツに理科室の鍵渡しちゃって…。
「これ、椎名ちゃんは困んないワケ?俺が持ってたら…」
「あなたに、持っててほしいんですの」
 受け取っていいものか戸惑った俺の手を、椎名ちゃんの手が握りしめてくる。
「ありがとう、葉佩クン…。リカの呪縛を解き放ってくれて。リカももっと強くなりたい。悲しみに負けないように。今度こそ、心に大切なものをしまって―――」
 そう言って笑った椎名ちゃんは、お世辞とか抜きで。可愛かった。最高に。
 
 
 そうしてオルゴールの奏でる旋律は、夜の空にゆっくりと、消えていった。  

*  *  *

 死なれるということ。(死ぬということ。)
 遺されるということ。(遺すということ。)
 
 
 幸せなんて、待っていない。
 でも、乗り越えて、生きて行かなくちゃいけない。
 例えその炎を一人でくぐれなかったとしても、二人なら。仲間がいれば、いつか。
 『死』という傷を負って、それでも、その傷と、想い出を抱いて、いつか。
 その向こう側に、辿り着けるもの、なのかもしれない――――。

End...