風云-fengyun-

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***since 2005/03***

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3rd.Discovery あの炎をくぐれ! - 5 -

 八千穂ちゃんと別れて、一人で寮に向かって歩き出した直後、H.A.N.Tが震えた。
 メール到着。差出人は……取手だ。
『君はどこでこれを見てるんだろう。こんな風に友達(っていってもいいんだよね…?)にメールを書くのは初めてだから、何だか少し緊張するよ』
 てな書き出し。なんつーか、ホント可愛いよ、取手!!
 俺にメールを書く事が嬉しくて、楽しいって。それから、音楽室にいるから遊びに来てほしいって内容。うんうん、俺でいいならいつでも行くよ、音楽室。
 でも、そう思う傍らで、やっぱり感じる後ろめたさ。色んなことを隠していて、そしてたぶん…違う、絶対に語らない俺の嘘。そんな俺を見て、友達だと言ってくれる八千穂ちゃんや取手。ものすっげー、罪悪感。
 俺はH.A.N.Tの画面に映る文字を追いながら溜め息を吐いた。罪悪を感じながら、それでも、取手に遺跡の事を聞き出そうとしている自分もいる。これってもう、既に業の域だよな。サイテー、葉佩クンたら。って、前からサイテーだってことは分かってたから、気にするだけ無駄なのか?
 H.A.N.Tを閉じてから、寮に戻ろうとして、ふと目に入ってきたのは墓場のすぐ近くにあるバー。確か、千貫のマスターはあのバーが本業なんだよな。ちょっと覗いて挨拶してこよっかな。
「いらっしゃいませ。……あぁ、あなたは」
「どうも、こんばんは。あ、ホントに入っても大丈夫っすか?制服のまんまなんスけど…」
「もちろんです。それに、今日いらしているお客様はそんなこと気になさらないでしょうから」
「へ?」
 店内を見ると、カウンターには見慣れた白衣が座っていた。
「ん?何だ、葉佩じゃないか」
「わぉ、ルイ先生!相も変わらずチャイナがセクシーです!」
「ふふ、ありがとう」
 そうやって笑ってかわせるその余裕!大人の女だねー。
 ルイ先生は手招きして隣へと俺を呼んだ。キャー、特等席!こんなところを他の男子生徒に見せびらかしてやりたいくらい。
「さて、ご注文は如何致しましょう?」
「あ……んじゃ、牛乳!それから、舞草ちゃんが言ってたマスターの話ってのが聞きたいっす」
「私の話―――ですか?私などしがない一店主でございますから、私の事などではなく、別のお方についてのお話をさせていただきますよ。ええ、うちの坊っちゃまの話なのでございますが……」
 それから延々、マスターが語ってくれたのは、その『坊っちゃま』が生まれた日の事だった。奥サマと旦那サマがオペラを見に行った帰りの車内で、予定日よりも全然早く産気付いて病院に運び込まれた、ってとこまで。
「これは申し訳ありません、ついつい話が長くなってしまいました。この話は、またのご来店の際に、ゆっくりと―――」
「じゃあ続きは次回のお楽しみってことで」
 マスターは俺に牛乳を出して、他の客の注文に取りかかった。少し離れたところでマスターがグラスを弄るのを見ながら、俺はなんとなく独り言のように呟いた。もちろん、ルイ先生は聞いてたんだけど。
「でも、いいっすね、そうやって自分が生まれたときのこともしっかり覚えてくれている人がいるって。その『坊っちゃま』も、幸せなんだろーなぁ…」
「葉佩、君は……」
「え?あ、変な意味じゃないっすよ?ほら、親とかってあんまりそういうこと、話してくれないから、そういう意味で…」
 やべやべ。口がうっかりつるりんこ。ルイ先生が怪訝な顔で見てるよ。つーか普通のお宅の親御さんの話なんて、俺知らねーし。
 俺が目を合わせてらんなくて、牛乳を飲んで誤魔化すと、ルイ先生は細いグラスを傾けながら、聞いてきた。
「私たちカウンセラーがカウンセリングを行うには、クライアントとの間に強い信頼関係が必要だ。葉佩、君は―――私を信頼して、心を覗かせてくれるかい?」
「そりゃ、もちろん!ルイ先生にならフルオープンで上から下までドコまでも見せます♪」
 すると、ルイ先生はちょっと驚いた顔をしたけど、
「フッフッフ、本当に可愛いな、君は。ま、そういう話はおいおい…ね」
 わぁお!これって脈有りって事ですか?生徒と先生、しかも保健室の美人教師!どっかのAVにでもありそうですけど。
 ま、ルイ先生の表情を見る限りどっちも化かし合い、ってのが分かってる感じではあるけど。侮れない人だなー、ホントに。
 俺は牛乳を飲み終わると、マスターに声を掛けた。
「ごちそうさまでしたー。あ、会計…」
「それならば瑞麗先生からお預かりしてありますので、結構でございます」
「へ?」
 いつの間に!?早業だな、オイ。
 ルイ先生を見ると、先生は素知らぬ顔で酒飲んでます。こ、これって奢られちゃっていいのかね?
「それと、こちらは私から。お持ち帰りください」
「へ!?」
 マスターは、俺に大きな牛乳の缶をくれた。……マジ?
「若人には牛乳が一番ですから。遠慮せずにお持ちください」
「いーんスか?」
「どうぞどうぞ」
 じゃあ、遠慮無く、頂きます。
 というわけで戦利品(?)の牛乳を片手に、俺はバーを出た。なんか、学生服でバーってのもやっぱり妙な組み合わせだいね。
 さて、寮に戻ろうかと、踏み出した俺の目に飛び込んできたのは、たぶん、雛川先生。遠目から見たからハッキリとは分かんないけど、あっちって、礼拝堂…?そう言えば、前も礼拝堂から出てきた先生とかち合ったよな?先生って、キリスト教徒?
 別に、そんなことはどうでもいいんだ。気になったのは、先生がものすっごく凹んだ感じで歩いていくから、そっちが。もしかすると、泣いてたかもしれない。そう思ったら、足は勝手に礼拝堂へと向いていた。
 静まりかえった礼拝堂の中は、薄暗く、先生がどこかもよく分からなかったけど、目をこらしてみれば祭壇に向かってしゃがみ込んでいる人の姿が。
「神様……生徒たちを守っていくのは、私たち教師の務めではないのでしょうか……」
 雛川先生の声だ。
「《生徒会》に全て任せる?それがこの學園のやり方!?こんなの……仮初めの秩序の上に胡座をかいて、教師としての務めを放棄していることに他ならないのではないでしょうか……」
 声は、かなりせっぱ詰まっている感じでさ。それ以上見てらんなくて、俺は思わず声掛けていた。
「あれ?センセ?こーんなとこで何してんの?」
「えッ……!?あ……葉佩君。いつからそこに……?」
「今さっきっス。通りがかり」
 なーんて、嘘だけど。
 先生は立ち上がると、ちょっとぎこちない様子で俺の方まで歩いてきた。目を合わせようとしない。当然か。
「その…聞いていた?今の、私の……」
「何をスか?すんません、そこ通ったら声が聞こえたんで覗いただけなんで」
「…そう。それじゃあ、先生はそろそろ帰るわね。あなたも早く部屋に戻った方がいいわ」
 無理矢理、って言うのがバレバレな笑顔で言うと、礼拝堂の出口まで歩いていった。
「じゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
「はーい」
 それから出ていくのかと思えば、先生は少し悲しそうな顔で俺を凝視してきた。
「…………ありがとう、葉佩君。あなたは、優しい子ね」
 そんなこと、ないですよ、センセ。先生の方がずっと、俺なんか及びも付かないくらい優しいと思います。
 俺は雛川先生を笑顔で見送ると、少し間をおいてから礼拝堂を出た。
 教師でさえも抗えない実権を持つ、《生徒会》、かぁ…。そりゃ、何にもできなけりゃ歯痒くもなりそーだな。雛川先生、ただでさえ正義感強そうだし、その上思い詰めそうだもん。教師も大変だね。
 つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか寮に到着。部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、目の前の部屋の扉が突然開いた。出てきたのは、夕薙マッスルさん。つーか同級生なんだから普通に呼んでいいんだよな、この場合。
「よォ、確か葉佩……だったな」
「こんばんにゃ。お加減いかが?」
「ああ、ありがとう。大分いいよ」
 結構元気そうだけど、具合悪くて早退してんだよな、こいつ。
「随分楽な格好で」
「部屋に戻った後は、こいつに着替えるようにしてるんだ。これなら、部屋でゴロゴロしてる間につい寝てしまっても皺になったりしないんでね」
「なぁる」
 でも、俺は、つい、で寝てしまうことなんか滅多にないからなぁ。ゴロゴロしてても夜なら特に、眠くなんないし。
「ところで、君は放課後自分の部屋へ戻った後は何をして過ごしているんだい?」
「俺?うーんと…」
 まさか銃の整備してますとも言えないし、夜中に宝探しに行く準備をしてます、とも言えないし…。
「特に、何もしてないかな。何してる?って聞かれても思い浮かばないから何にもしてないんだろ」
「へェ~、そんなことを言われると、興味が湧くな。本当に何もしていないのか……ってね」
 ぎくり。
「ゆ、夕薙は?いつもゴロゴロしてんの?」
「俺は自分の部屋で雑誌を広げたりしてるよ。夜に外を徘徊して、《生徒会》に目をつけられたりしたら面倒だしな」
 そうだね、それが一番だ。きっと。俺なんか思いきり外を徘徊して生徒会の方に目を付けられちゃったよ、執行部、だっけ?
 あはは、と笑ってみた俺の肩を、夕薙は軽く叩いた。そしてすれ違い様、
「―――ま、君も夜遊びは程々に……な」
 へ!?
 その言葉にビビって、振り返ろうとしたんだけど止めた。反応はなるべく見せないのが鉄則だ。ここで無駄に慌てたら、逆に怪しまれる。
「俺は別に女子寮に忍び込んだりした覚えはありませんが?」
「ははは、捕まらないようにな」
 背中に感じる夕薙の足音が小さくなっていくのを感じて、俺は部屋へとダッシュした。
 あ、あの言い方は、バレてる!?何で!?だって、俺、夕薙とは今日知り合ったばっかだ。顔見知りも初心者程度だぞ!?
 そういえば、昼間、噂がどうとかって……もしかして俺が知らないだけで、俺の正体は噂になってるとか?だから椎名ちゃんは暗に執行委員だという事を匂わせたのか?あー、色々合点がいく…。
 あと可能性といえば八千穂ちゃん、皆守、取手だけど、取手はたぶん、言わないだろう。あんなことがあったし。あれ?皆守って、夕薙と仲良かったんだっけ?でも皆守は喋んなさそうだしな。八千穂ちゃんと夕薙は……どうなんだろ?
 俺は荷物を下ろして、窓から身を乗り出して隣の皆守の部屋を見た。電気点いてる、って事はいるな。
 またもコンクリートの出っ張った部分に足を掛けて、窓から窓へ平行移動。
「おっつー、皆守、いる?」
 今日は窓の鍵が閉まっていたから、ガラスを軽く叩いてみる。窓際にベッドを置いている皆守は、背後からの来訪者にいたく驚いた。
「葉佩ッ!!お前、」
「開けてー」
「断る!」
「落ちちゃうよー」
「勝手に落ちろ!!」
「分かった」
「はァ!?」
 言ってみるもんだ。皆守はすぐに窓を開けて、落ちる気なんて毛ほどもない俺の両腕をがっちり掴んで抱きかかえると、いつぞやのように部屋の中に引きずり込んだ。あはは、相変わらず心配性だねー。
「お、お、お前、なぁッ!!」
「怒った?ゴメンね」
「どうせ悪いと思ってないんだろうがッ」
「思ってるよ、ちょっとだけ」
 皆守、脱力かかりました。気力10低下、って感じ?
「入るならそっちから入ってこい!」
 そっち、と言ってパイプで指したのはドア。うん、ドアでもいいんだけどさ。なんとなく。
「ダイジョーブだよ。もし覗いて一人エッチとかしてたら声かけないで引っ込むから」
「そういう問題じゃないだろ!!」
 分かってるよー。俺が落ちるかも、って言ってんだろ?ヘーキヘーキ、あんな不覚は二度と取りません。鍛えましたから。
 部屋のフローリングに下ろされた俺は、前と同じようにベッドから枕を引っこ抜くとそれを抱えた。
「お前、枕……あー、もういい。……で、何なんだ?」
「そうそう。な、な、夕薙と八千穂ちゃんて仲良いんか?」
 身を乗り出すと、そんな質問は予想してなかったのか、皆守の方も身を乗り出してきた。
「何でそんな事が聞きたいんだ?八千穂と大和の仲が気になるのか?」
「あ、やっぱり大和って呼んでるんだ」
 夕薙が甲太郎って呼んでたから、そうじゃないかとは思ってたけど。へー、なんか意外。皆守が下の名前で他人を呼んでるの聞いたのって初めてかも。この二人も仲良いんだって、後でH.A.N.Tにメモしておこ。
「……それがどうかしたのかよ」
「いや、さっきさ、夕薙に『夜遊びは程々に』って言われちゃってさ。もしかして、バレてる?って思って」
「…………バレたのか?」
「俺は、今日が夕薙との初対面だもん。だから俺の正体についてどっかから噂が広まってるか、もしくは八千穂ちゃん、取手、お前のどっかから漏れた、もしくは墓に潜るのを見られた。さて、どれでしょー」
 俺が指を折って可能性を上げていくに併せて、皆守の首も頷くように動く。瞳孔、顔面筋肉、その他の様子を見る限り、皆守が話したって感じじゃないな。
「俺が聞く限りのお前の噂ってのは、ノリの軽い女好きの転校生ってくらいだ」
「へー、やっぱ噂って本人の耳には入らないもんなんだな。じゃあ後は、墓で見られたか、八千穂ちゃんからか、ってことになるわけで。そんで二人は仲良いの?って話」
「さぁな。大和も教室にいない奴だから、特に仲良さそうとかって話も聞かないな」
 なら見られたか?かなり注意はしてたつもりなんだけど…、ちょっと迂闊に出入りしすぎたかもしれない。夕薙がどういう類の人間かまだ計りかねるけど、あっちがアクションを起こすまでは確信できないからこっちも動かないほうがいーんだろーな。
「お前は……俺が大和に話したとは、考えないのか?」
「まーね。これでも海より深く信頼してますから」
「なッ―――、何言って…」
「そーいや、取手の部屋ってどこか知ってる?」
「…………」
 話を変えられて機嫌を損ねたのか、皆守はむすーっとした顔でそっぽを向いてしまった。怒っちゃイヤン。
 つーか、皆守ってスルー機能薄いよな。八千穂ちゃんや舞草ちゃんはあんなに綺麗に冗談だと思ってくれんのに。
「怒った?」
「別に」
「じゃあ取手の部屋教えて?」
 枕を抱えたまま、皆守の座るベッドの縁に肘をかけると、これ以上寄るな、という事なのだろう、額を掌で押さえられた。しかも押される。
「何、この手。拒否権発動?あ、俺のコト嫌いなんだ」
「はぁ!?何でそうなる、」
「うん、分かった。じゃ自分で調べる」
 俺は皆守の手をどかして立ち上がると、皆守の部屋の扉から外に出ようと足を向けた。その腕を、掴まれる。
「ん?」
「……取手のとこに行って、どうする気だよ」
「あの遺跡のこと聞くんだよ。今まで何回行っても取手のいたところに通じる扉しか開いてなかったからさ」
「何回もって、お前そんなに頻繁に行ってるのか?」
「まあ、うん」
 一度、皆守が付いてきてくれた事があったっけ。
 俺は離してくれない手を見ながら、そんな事を考えていると、
「今日も行くのか?」
「うん。そのつもり。椎名ちゃんの事も、あるしな」
「……そうかよ。で、八千穂は誘うのか?」
 誘うつもり?ないよ、そんなもん。
「バディは、取手に頼もうかと思って」
 その途端、心なしか腕を掴む力が強くなった気がした。気がした、だけ?にしては、皆守の目が怖いんですけど…。
「いーよ、大体みんな扉の前にプレート掛かってるから、探す」
「…フン」
 やっと放してくれた皆守は、その手で消えかけたアロマに火を着けた。ラベンダーの匂いが、更に強くなる。
「では、お邪魔しました」
「………取手の部屋なら出て左側のずっと奥だ。プレートが出てる」
「サンキュー!!」
 結局教えてくれんだもん。やっぱ優しいねぇ♪
「ほんじゃ、おやすみー」
 扉から顔だけ出して手を振って、そのまま閉める。途端に薄くなったラベンダーの匂い。何だか物足らない気がするのは、確実に嗅覚がおかしくなってるせいだよな。
 それで?取手の部屋は…っと、お、ここか。
 扉を叩くと、中で誰かが動く気配。あれ?なんかタイミング悪かった?
「だ、だ、誰だい…!?」
「取手ー、俺、葉佩。開けてヘーキ?」
「葉佩君!?あ、いいよ、どうぞ…」
 扉を少し開けると、なんともまぁ、正座した取手が部屋の真ん中に。そんな畏まらなくてもいいのに…。
「ゴメン、ちょっといいか?」
「な、何か僕に!?」
「おう。一つ二つ聞きたい事と頼みたい事があって」
 中に入ると、取手は慌てたようにクッションを引っ張ってきて俺に勧める。いや、だからね…。
「で、さ。聞きたい事ってのはあの遺跡のことなんだけど」
「あぁ…」
 取手の表情が沈む。……そりゃ、そうだよな。自分の大切な思い出が封じられていた場所だ。あんまり思い出したくないのかもしんない。
「あ、や、嫌なら、いいんだ。ゴメンな」
「そ、そうじゃないんだ、そうじゃ、なくて……あの遺跡の中で、僕が分かっているのは、僕の居たあのエリアだけで…他の区画の事は分からないんだ。他の区画は、別の《生徒会執行委員》が管理してるって言ってもいい」
 つまり、次の扉を開く鍵は、やっぱり執行委員…今回の場合は椎名ちゃん、てことか。
 大切なものを遺跡に封じられて、自らが墓を封じる鍵となる。それが、執行委員…。椎名ちゃんの欠落した死への倫理観念の要因も、おそらく墓に、あるんだろう。
「執行委員は、生徒会への忠誠の証として、自らの宝をあの墓に捧げる。引き替えに手に入れるのが、人知を越えた《力》…。僕の場合は、精気を吸い取る両腕というわけさ」
「他の《執行委員》は、また別の力なのか?例えば、爆弾を作り出せたり…」
「……そうだろうね」
 取手は自分の両手を見つめた。
「で、まだ力って残ってんの?」
「うん。あ、でも前のように誰かから精気を吸い取ったりは…」
「分かってるよー、そんなこと。でも、それなら頼んでも大丈夫か…」
 《力》があるなら、あの遺跡の中でも危険は格段に減る。だったらやっぱりバディは取手に頼むべきなのかな。
「何をだい?」
「いやさ、今日も潜ろうと思ってるんだけど、一緒に、行かない?」
「えッ!!?僕が!?僕、僕、僕も、」
 興奮したのか、右へ左へ挙動不審になる取手クン。反応が可愛すぎる!
「落ち着け、取手!」
「僕も、一緒に行っていいのかい!?」
「その、お誘いなんですが。ていっても、時間が遅くなるから、無理なら全然いいんだけど」
 と言っても既に取手は行く気でいましたとさ。何を持っていけばいい、格好はどうすればいい、と興奮気味に聞いてくるから、いつも通りでいいよ、と言っておいた。
「じゃあ、今日は夜更かしの準備ヨロシク!時間になったらメールするけど、大体12時くらいだと思っておいて」
「分かったよ……葉佩君」
「ほぇ?」
「誘ってくれて、ありがとう…」
 取手は、柔らかく笑った。
 危険な場所に行くことを誘ったのにお礼を言われる事の意味はよく分からなかったけど、やっぱり、笑顔はこういうものだとちょっと思った。椎名ちゃんみたいに無邪気な顔して邪気たっぷり、なんて笑顔はあんまり好きじゃない。きっとあの子は、ちゃんと笑えば絶対にもっと可愛い。俺が保証する。
 取手の部屋を出ると、そのまま自分の部屋へ。俺も準備とか色々あるから仮眠とか取ってる暇ないなー、っと……あれ?
 扉のノブに手を伸ばし、回してみれども扉は開かず。
 そうだ!!窓から皆守の部屋に行く前に、内側から自分の部屋の扉の鍵、閉めたんだった…。ダメじゃん、俺。どうしよ…。
 どうしよう、って、皆守の部屋から窓伝いに移動するしかないんだけどさ。逆隣、ただの物置っぽいし。でも皆守、寝てそうだな~、起こしたら怖そうだし…。
 それでも部屋に戻るにはそれしかなくて、思い切って、皆守の部屋の扉をノックした。
 すると、中からはめちゃくちゃに不機嫌な声。怖ぇ!!
「……誰だ」
「さて、誰でしょうか!」
 返事はなく、その代わりにドアが物凄い勢いで開いた。ドア枠に腕をかけて、皆守が睨み下ろしてくる。
「まだ何か用でもあんのか?」
「えへへへ、実は、俺の部屋のドア、内側から、鍵がかかってましてー……窓から、出してくんない?」
「はァ?」
 一瞬呆けた顔を見せた後、
「……阿呆かお前は、いや阿呆だ。究極の阿呆だ」
「よく言われますぅ…」
「人の部屋を通路にしやがって、ったく…」
 そう言いながらも部屋に通してくれる皆守クン。
 窓を開けて、
「落ちるなよ、阿呆」
「ガッテンでい、親分」
「……阿呆」
 皆守の部屋に入った時のように平行移動で、自分の部屋の窓まで。その始終を皆守はずーっと見ていた。やっぱ、落ちないか心配?
 渡りきった俺は、部屋に入って、それから皆守に向き直って手を振った、けど、皆守はすぐに窓を閉めてしまってそれっきり。だから、「ありがとねー」と叫んだら、皆守は顔を出して「叫ぶな、うるさい!」と怒鳴った。怒った?ごめんね。
 さて、無事に部屋にも戻った事だし。ロックフォードアドベンチャーの続きでもやって、亀ショップに新しい武器が入ってないか見て、銃の手入れでもしましょ。
 あ。皆守から非常口の鍵借りんの忘れた……まぁ、いっか。ロープで降りるべ。