風云-fengyun-

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***since 2005/03***

| Prolog | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |

1st.Discovery Brew - 変化の起爆剤 -

 その日、天香學園に、また転校生がやってきた。
 葉佩九龍クン。変わった名前だよね?でも、なんて言うかなあ…名前よりも、彼の雰囲気の方がもっと変わってた。
 最初は、ちょっと軽い?って思ったんだ。物言いとか、女の子にすぐ「可愛い」っていうところとか。
 でもね、印象に残ってるのは、自己紹介のとき、ちょっと俯いてた彼が顔を上げたときに、一瞬だけ、すっごく目の中が空っぽに見えたこと。それが他の、あたしたちとは何か違うと思って、ヒナ先生が『席は…』って言ったときに、思わず手を挙げてたんだ。もちろん、あたしの隣が空いてたのはホントだよ?でもそれよりも、彼の事をもっと、そんな目をする意味をもっと、知りたいと思ったんだ。
 休み時間に話をしてみた葉佩クンは、やっぱりすっごくノリが軽くて、でもね、不愉快なノリじゃないんだ。学校を案内してあげるって言ったら喜んでくれたしね。行った先の図書館でも、あたしは冗談だとばっかり思っていた月魅の話を、結構真剣に聞いてた。本も好きだって言ってたし、意外と真面目?とか思っちゃったりして。
 月魅の話っていうのはいつもちょっと現実離れしてて、オカルトめいてて、だからあたしも嫌いじゃないんだけど、あたしは全部を本気にして聞いてるワケじゃないんだ。月魅には悪いけど、この學園に何か大きな秘密があって、それは墓地に関係してるって言われてもピンと来なかった。
 だって、突飛すぎるでしょ?誰だって自分の学校にとんでもない秘密があるって言われても、そう簡単に信じることなんてできないと思う。あたしは天香で3年、平穏で変わりのない日常を過ごしてきた。転任、転校が多いものの、それでも普通と言っていい、毎日の連続。そんな中、月魅の話は刺激にはなるけど……現実じゃない、そう思ってた。
 でもね、葉佩クンは真剣に聞くんだ。そうするとね、不思議と月魅の話が本当のような気がしてきて、《超古代文明》とかって言われても、もしかしたら、本当?とかって思っちゃう。墓地が怪しいって言うなら、見に行ってみようかな?っていう気にもなる。
 本当に、不思議な人。
 あたしは葉佩クンと一緒にご飯しながら、色々と聞いてみたんだ。
「葉佩クンて、前はどこに住んでたの?」
「んー?まぁ、色々。親父が貿易関係の仕事で結構色んなとこ、行ったよ」
「じゃあ英語とか得意なんだ?」
「日常会話程度にはね」
 あたしの質問に、葉佩クンは淀みなく答える。まるで、事前に答えが用意されていたように。でも、転校は結構たくさんしてたって言うから、やっぱりこういう質問に慣れちゃったのかな。
「八千穂ちゃん、彼氏は?」
「へ?あたしぃ!?」
「おう。いるの?」
 葉佩クンは、カレーパンを頬張りながら何気ない様子で聞いてくる。
 もう……こういうところ、軽いんだから。
「い、いないよ!」
「マジ?何で?あ、別に彼氏とかいなくても良いって人?」
「そういう、ワケじゃないけど」
 今までそれほど好きだなー、って思う人もいなかったし、部活が忙しいっていうのもあったし…。
「ほら、あたしってこうだから、いつも男子とも友達って感じになっちゃて」
「勿体ない。そんなに可愛いのに」
 葉佩クンてね、自分のこと聞かれるときはいつも微笑いながら、どっか遠いところ見てる感じがするのに、他の人の事を聞くときはじーっと、目を見て話す。そうすると、葉佩クンの言ってることは、全て信じたくなっちゃう。
「も、もう!葉佩クンてば冗談ばっかりなんだから!」
「えぇ!?別に冗談なんて言ってないじゃん。可愛いよ?八千穂ちゃん」
 俺、タイプ、とか言いながら、真剣な顔するの。ちょっと待ってよ~…本気にしちゃうよ?
「結構色んな国に行ったけど、俺は日本の女の子が一番可愛いと思う。日本は平和な国だしねェ…」
「え?」
 最後の言葉が気になって、問い返すと、
「イエ、何でもないですよ」
「そう?」
「おう」
 やっぱり、葉佩クンてどこか変わってる。変わってるついでに、話題も変えられちゃった。
「で、さ。八千穂ちゃんは学校の墓地について、何か他に知ってる事、ない?」
「例えば…?」
「ほら、行方不明者の持ち物が埋まってるって話だけど、どう考えたっておかしいだろ?もしかしたら学校が建つ前から墓地で、祟りとか縁起事とかのせいで残ってるとか」
「う~ん……どうなんだろ。でも確かに、そう言われてみればおかしいよね。あたしもそこまで深く考えたことはなかったけど」
「墓地って、立ち入り禁止なんだろ?」
「そうだよ」
 すると葉佩クンは、しばらく何かを考え込んだ様子で、
「やっぱ、変だと思うぜ」
「でも、この学校、ちょっと校則厳しかったりするから、それで…」
「いなくなった転校生と仲良かったヤツとかさ、墓参りとまでは言わないけど、たまに会いに行きたくなんない?」
 言われてみれば。墓地、なのに『お墓参り』が禁止されてるのって、変だよね?お墓って、元々死んだ人の魂とかそういうものを鎮めたり奉ったりするものだし…。
 今まで、考えたこともなかった。
「そうだねェ…」
「だろ?ホントに、誰も入れないわけ?」
「うん」
 葉佩クンが『変なの』と呟いたところで、昼休みが終わるチャイムが鳴った。
 そこでその話もお終い、のはずだったんだけど、あたしはどうしても月魅の話と、それから墓地のことが気になってしまった。
 だっておかしいもん。おかしいって気付いちゃったんだもん。そうしたらもう、居ても立ってもいられなくなるのが性分なの。もしかしたらつまらない學園生活が一変するかもしれない。そう考えたら。
 凄い事だよね、それって。
 葉佩クンが転校してきたことで、もしかしたら全部が全部、変わっていくかもしれないんだよ?
 変化って、ほんの少しの基点がずれるだけで、一気に変わっていっちゃうもの。あたしの墓地に対する考え方とか、まさにそう。葉佩クンの言葉が、全て起点になっているかのように、変わっていく。
 で、まさに葉佩クンがあたしの日常を一変させる人だって分かるのは、その日の夜の事。
 そこからあたしの周りでは色んなことが変わっていくことになる。
 その時はまだ、気付かなかったんだけど、ね。

End...