風云-fengyun-

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***since 2005/03***

| Prolog | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |

1st.Discovery 謎の転校生 - 2 -

「《超古代文明》の遺産かァ。何か面白そうだよねッ」
 だ、ねぇ。墓に、遺産。そりゃどういう事だろう、ねぇ。
「そうだ。今度、誰にも見付からないように、こっそり夜にでも墓地に行ってみない? 調べれば何か――ん?」
 夜中にランデブー?そら楽しいや、と思ってた俺の耳に、楽しくない辛気くさぁい、音が。ポロン、ポロンと。これは……ピアノ?
「今音楽室からピアノの音がしなかった? この時間は誰も使っていないはずだけど」
「うっわ、ヤな感じ」
「もしかして、音楽室に出るって言う幽霊だったりして」
「ヤメテ、そういう話はヤめとこうか、ね」
 止めろと言うのに八千穂ちゃん、学校の階段を話し出した。
『一番目のピアノ』。昔、事故でピアノが弾けなくなった女の子の幽霊が、ピアノを弾きに現れ、綺麗な指してる子からは精気を吸い取るんだと。で、吸い取られた人はミイラみたいな手になるんだとか。
 はい、夢に出ますね。決定ですよ、こりゃ。
「ね、ちょっとドアの隙間から音楽室の中、覗いてみよっか?」
「げ、マジかよ、やめとこーぜ?」
「だって、幽霊見れるかもしれないし」
 それが嫌なんだっつーの。こら!
 俺の嫌がる様子はまるで無視。八千穂ちゃんは音楽室を覗き込み、俺もつられるようにしてドアの隙間に視線を向けた。
 真っ暗な音楽室。そこには人影が。よし、足ある。確認。これで幽霊じゃないと確定。
 見ればその人影は学生服を着ていて、背と腕がひょろっと長い、特徴的な体型をしていた。
「あれは……A組の取手クン?電気もつけないで、何してんだろ?」
 足、はあるけど。その取手くん、何となくフラってるぜ?学生服から伸びる手とか、真っ白だし。
「何か声を掛けづらい雰囲気だね……。行こ、葉佩クン。別の場所を案内してあげるよ」
「ガッテン」
 まぁ、相手はどっちにしろ男だ。俺が気に掛ける必要性はゼロ。次行くか、次!
 んで、着いたところは保健室。
「ここが保健室―――なんだけど鍵がかかってるなぁ」
「昼休みの保健室なんて、誰かしらいそうな雰囲気あっけどね」
 そりゃ俺の夢見すぎ?学園生活に対しての。ほら、綺麗な保健の先生とかさ、そういうの。
「いつもはカウンセラーの先生がいて、いろいろ相談にも乗ってくれるんだよ」
 そらきた、ほれきた!へぇぇ、カウンセラーか、珍しい、よな?
「凄い美人でさぁ。中国からきた瑞麗っていう先生なんだ。みんなはルイ先生って呼んでるけど。ヘヘヘッ…。葉佩クンも興味あるでしょ?」
「あるある。すっげーあるよ。早く会いたいね、ルイ先生」
「やっぱりねェ、まったく男子は単純なんだから」
 ていうか俺が単純なんです。いいじゃん?綺麗な女の保健の先生!力一杯白衣を希望します!
「じゃあ次に来るときはいるといいね、ルイ先生」
「そだな」
「えーっと、じゃあ次は売店ね」
 おぉう!學園生活といえば売店だろ、売店。学食と売店が学生生活には欠かせないと思うのですよ、ハイ。
 どうやら、売店には学用品から日用品まで幅広~く、扱っているようだった。
 ね、粘土?一体、誰が使うんだろう、粘土…。粘土研究会?ンなモン無かったぞ、確か。
「売店は境ってお爺さんが一人でやってるんだ」
 へー、でも今いないな、と売店をぐるりと俺が見回すと、
「――騒々しいのぉ。…まったく、誰が爺さんじゃいッ!!」
 出た。モップを背負ったじーさんが、いつの間にか俺の背後に出没し、腕組みをして何やら考えているようだった。
 どうも深刻げに考え込んでいるから、なるべく邪魔しないよう黙ってると、なぜかマシンガントーク娘八千穂ちゃんも黙ったままだ。
 何?この変な空気…。居たたまれなくなって、俺が何か喋りかけようとしたときだった。
「むッ!?あそこに見えるのは…」
「え……?」
 唐突な発言に、言われた方向を俺も八千穂ちゃんも仰ぎ見る。窓の、外?何もないけど?
「今じゃッ!!」
 なんとじーさん、やりやがった。八千穂ちゃんのスカートが、まるで風を受けたかのようにふわりと広がる。その下に広がるのは……水色の下着。
 あーあ。
「きゃァァァァァッ!!」
「いっひっひっひっ。眼福、眼福。長生きはするものじゃわい」
 俺も眼福でした。ごちそうさま。八千穂ちゃんがじーさんに向き直ったのを良いことに、俺はじーさんに向かって手を合わせてしまった。
「こッ、この……、」
「ほえ?」
「スケベジジィィィィッ!!」
 ハイ自業自得。じーさんが殴られた瞬間は、俺もそう思ったが。殴られた程度を見ると、ちょっとそれだけでは済まないんじゃないかと思った。……壁に、めり込んでンぞ?
「まったくもう、信じらんないッ!」
「あ、あのぉ……生きてます?」
「うう……わ、儂は……もうダメじゃ…。し、死ぬ前に、その乳……揉ませて、く……れ…」
 幸せなじじいだ。こりゃ心配する必要もねーだろ。つーかして損した。
「そこの若者よ、お主も揉みたいじゃろ?」
「そりゃ、俺だって健康な男子高校生っスからね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。お主、その年で中々見込みがあるのお」
 いったい何の見込みですか、じーさん。スケベ検定ですか?だったら俺はまだ五級程度のひよっこです。
「ちょっと、何言ってンのよッ!葉佩クンはスケベジジイとは違うのッ」
「やれやれ、冗談の分からん連中じゃわい」
「冗談でスカートめくられたら、堪んないわよッ!!」
 じーさんは、そんな八千穂ちゃんをまるっきり無視して俺に向き直った。
「時にお主、見ない顔じゃな」
「あたしの話、聞いてんの!?」
 聞いてないクサイよ、このじーさん。だって俺に何者か聞いておいて、自分の自己紹介始めンだもん。
「儂は、境玄道、この學園の『校務員』兼『清掃係』兼『売店の店主』兼……」
「はいはい、わかったわかった。彼はあたしと同じ3-Cに転校してきた葉佩クン。売店に何か買いにきても変な物をうりつけないようにねッ」
「失礼な娘じゃの。儂はただの親切な売店のおやっさんじゃ。その証拠にこれをやろう」
 オルゴール?蓄音機のようなホルンのような形をしたオルゴールらしきものを受け取っては見たものの、これが変なものを売りつけない証拠なのか?
「そんなこといって、どうせまたエッチなこと企んでるんでしょッ。葉佩クン、行こッ。次は屋上を案内してあげる」
「屋上で変な事したら駄目じゃぞ~」
「了解しました~。別のところでやりまぁす」
「葉佩クンも何真面目に返事してんのよ、早く行くよ!!」
 八千穂ちゃん、ご立腹。それ以上は余計なことを言わないようにして、俺は八千穂ちゃんの後を着いていくのでした。
 その途中、石研と呼ばれる妖しげな部活のあるという文化部部室棟の話をしている最中、またまた俺は綺麗な子を見つけた。
「あれ……あれは、同じC組の白岐サン…?窓の外をじっと見て、何してんだろ?」
「何つーか、雰囲気ある子だな。でも、さっきまで教室にいたか?俺、気付かなかったんだけど」
 そりゃ俺の注意力散漫のせいですか、そうですか。
 にしても……綺麗な子だな。髪が背中じゃない、太腿より更に下、膝くらいまである女、俺は初めて見たぞ。でもそれが、変に似合ってる。
「あッ、こっちに来る。
 や、やァ、こんにちはッ!!」
「……私に何か用?」
「用ってほどじゃないけど……何か窓の外に面白いものでも見えるの?」
「別に。だた景色を眺めていただけ」
 そうか…?なら、何であんなに、なんつーか、感情の濃い目で、見てたんだ?こっから見える景色ってのはそんなにキレイなんかね?だって、新宿だろ?緑が多いってワケでもあるまいし。
「あなたは…?」
「転校生の葉佩九龍クンだよ」
 俺の代わりに答えてくれる、親切炸裂八千穂ちゃん。てか俺のことは知らないってことは、さっきまで教室にいなかったってことだよな?てことは、俺の記憶違いじゃないってことだ!よかった、こんな綺麗な子、そうそう忘れてらんねーかんな。
「そう……また転校生が」
「また……?」
 うわぁ、嫌な引っ掛かり。
「そういえば、葉佩クンは知らないよね?この學園、転校生が多いんだ。新しく赴任してくる先生もね」
 あ、そういうことね。まぁ全寮制だから家の都合でひとり暮らししなきゃなんないヤツとか?事情持ちのヤツは探せばいくらでもいるだろうしね。ほれ、ここにもひとり。
 けれど、安心した俺とは裏腹に八千穂ちゃんの表情は曇った。
「葉佩クンの隣にもうひとつ席が空いていたでしょ? その転校生、ほんの三ヶ月前の夜に墓地のある森で行方不明になってそれっきり…」
「そ、それっきりぃ!?」
 何じゃその怖い終わり方は!?それっきり、それっきりもう、それっきり~ですかぁ?嫌だよ、おっかない。
「結局見つからなくて、警察はただの家出じゃないか、って」
「……寮から家出とか、聞いた事ねーけど…」
「うん……で、寮の裏手に立ち並ぶ墓地の墓石の下には、行方不明になったこの學園の先生や生徒たちの持ち物が埋められているんだ。この學園のみんなが行方不明になった人たちの事をずっと忘れないように。そして、いつか見付かる日を信じてね……」
 ひえぇぇぇ。俺、なんかすっごい曰く付きの学校に来ちゃった?あの墓地って遺跡とか以前に、ヤバくねーか?つーかヤヴェですよ。さすが俺、運が悪い。
「そして、また転校生が来た……あなたは、何者なの?」
 ね、やっぱりさっき白岐ちゃんが言った『また』って、また墓地に埋まるものが増えたって意味の、また?
「この學園は呪われているの。眠りを妨げるものには災いが降りかかるわ」
 眠りを妨げるものに、災い……?それって、確かエジプトでサラーのじいさんが言っていたことと、同じ…。
『アラーの眠りを妨げる者、死の呪いに憑かれる運命なり!』
「そう、か……眠りを妨げる者」
 やっぱり、墓が妖しいって事?だよな?
「……呪いは伝説でも幻でもない。紛れもなく、この學園の真実よ。……私の名前は白岐幽花。いつか、私の言ってる意味が分かるときが来るわ」
「こないこと、祈ってたりして」
「………」
「それじゃ―――」
 白岐ちゃんは、壮絶な流し目で俺を見て(睨んで?)音も立てないような足取りで廊下を滑るように歩いていった。
「この學園は呪われている……かぁ。確かに、ここには何かあるのかもしれないなぁ。ここさ、人が消えるし、不吉な噂も多い」
「でもあの歓迎されなさっぷりは凄かったね。俺、そんなに白岐ちゃんから見て却下?」
 俺が、半分真剣に言うと、隣で八千穂ちゃんが吹き出した。
「う~ん、やめやめ! 呪いなんて考えても仕方ないしねッ。屋上で新鮮な空気でも吸って、暗い気分を吹き飛ばそッ。ね?」
「だなッ!何だよ、一回フラれたくらいで挫けてどうする!行くぜ俺!」
「おぅよ!!」
 まぁったく、ノリがよくて素敵、八千穂ちゃん。本気で惚れそう。